真言宗智山派総本山智積院境内にある宿泊施設です。旧施設の老朽化に伴って再計画を行い、2020年5月に竣工しました。宿泊者の宗教行事への参加を見据えた宿坊としての機能を果たせる施設となっています。
都市計画法上の風致地区にあたる立地であり、宗教関連の建物であることから、外観は智積院関係者の皆様のご意見を伺いつつ、寺院らしさに重きを置いたデザインとしました。そうした中でも、瓦屋根・漆喰・焼杉板などの各要素をシンプルに組み合わせ、クラシックさとモダンさを兼ね備えた次の時代へ向けた新しい外観デザインを目指しました。
旧施設で3階にあった大広間は今回の計画では1階へ配置しました。大広間に安置される仏様の上には何も作らないことで仏様の尊厳を守り、宿坊としての施設運用時に効率化を図った動線としています。大広間の天井部は仏様に向かって照明が真っすぐに伸びるデザインとしています。また、庭園側は大きなガラス張りとなっており、境内とより一体感を感じられる空間としています。座った目線からでも美しく庭園を見上げることができるよう、軒の角度を調整しており、美しい庭園の景色を望んでいただけます。
ロビーは木目を基調とし、天井の格子の方向性によって日本庭園との連続性を持たせ、内外の一体感ある静かな空間づくりを心掛けています。フロントには京友禅を用いたガラスを組み込み、智積院の紋である桔梗柄をあしらっています。さらに、部屋番号を示すプレートには本物の銀杏の葉や紅葉を綴じ込むなど、細部にわたって利用者に「仏教」や「和」を感じていただく工夫をしています。
本施設は敷地内南側に位置し、北側客室からは雄大な境内を眺めることが出来ます。また、昨今の宿泊ニーズの変化に応じて、部屋数を確保し、和洋室など様々な宿泊形態にも対応できる設計としています。
今回のプロジェクトを進めるにあたって、毎回のお打ち合わせに加え、建て替え前の宿坊への宿泊や朝のお勤め、智積院主催の各行事へ実際に参加いたしました。こういった様々な経験を積みながら、よりよいデザインと使用感を求めました。